魚は近視?
ルアーの波動で魚を寄せる?
朝マズメ=釣れる?
同じ群れでも釣りやすい魚と釣りにくい魚がいる?
釣りにまつわる迷信や口伝が、科学で紐解かれていきます。
久々の名著のご紹介です。
「魚の行動習性を利用する釣り入門」は中級者以上の方向け
鹿児島大学名誉教授であり、水産学博士である著者による釣りの入門書。
「釣り入門」と書いてあるものの、内容としては釣り中級者以上の方向け。
初心者の方は道具の選び方(●●を釣るならこんな糸・・・)や釣り方(●●を釣るならこんな動かし方・・・)など、「釣り人目線」の入門書を読んだ方がいいです。
この本は、魚の視覚・聴覚・嗅覚・味覚・側線・消化速度・個体差などについて詳しく言及された、「魚目線」の書籍です。
釣りでも仕事でも恋愛でも通用する孫氏の兵法「彼(敵)を知り己を知れば百戦危うからず」。
仕事で契約を取るのも、恋愛で意中の異性を口説くのも、釣りで魚を釣り上げるのも、根本は一緒です。
「自分を知ること」以上に大切な「相手を知ること」。
この本では、釣り人の立場で魚について深く学べます。(大学教授が書いている割に大体が読みやすい内容です)
魚は眼がいい(近視は誤解)
魚は近視。
だから眼が悪い。
というわけではありません。(知ってました?)
魚と人間は視力調整のメカニズムが異なり、人間は眼のレンズの厚さを変えて遠近調整を行うが魚は眼の固いレンズを前後に微調整して遠近調整を行います。
メジナの視力は0.13とされますが、20cm先の0.1号ナイロン糸も視認できます。(詳しくは本書にて)
また、形状識別能力は抜群で、「O」「Q」といった形状の差から、「霧状の絵」の違いまで理解してしまいます。
人間よりも、かなり観察眼は鋭そうですね。
「ルアーの波動で魚を寄せる」って・・・
よく聞きますよね。
「ルアーの波動で魚を寄せる」。
これってどういうことでしょうか?
ルアーの動きによって起こる波動(水流の乱れ)が、魚の側線を刺激してアピールする。
私はそう思っていました。(側線とは、魚が水中で水圧や水流変化を感じ取る器官です)
でも、この本を読んで初めて知ったのですが、魚が側線で周囲の状況を知る範囲はかなり限定的だったのです。
側線による周囲の感知能力の射程距離は、およそ魚の体調程度。
20cmのアジなら周囲20cm。
80cmのシーバスなら周囲80cmが側線による感知可能範囲なのです。
(ハ●ター×ハ●ターの”円”能力に近いですね)
しかも、遊泳中には自身が巻き起す水流変化により、側線能力は大きく低下します。
「ルアーの波動で魚を寄せる」。
この考え方が有効なのは、海底であまり動かない根魚をはじめとしたロックフィッシュくらいなのかもしれません。
もちろん、波動=アクション=視覚へのアピールと考えるとまた話は別ですが、「波動理論」(魚は水流変化を感じ取り捕食する)は魚の生態の一部を過剰にクローズアップした理論のようにも考えられます。
魚の消化速度
面白かったのが魚の消化速度について。
魚は食べて2時間で消化します。
マダイを使った検証なので他魚種では誤差があるかもしれませんが、ひとつの目安にはなるかと。
マダイは満腹(胃の中9〜10割)になった後、2時間ほどすると胃の中が6〜7割になり再び摂餌行動をとります。
4時間ほどすると胃の中は5割程度の残留物になります。
このだけをみると、魚の食事タイムは2時間おきに訪れることになりますね。
実際は時合いやベイトの有無、摂食日周性などにより大きく変わりますが、「日没や日の出から2時間後までは釣れる」という釣り人のジンクスにも重なるところが多く面白いです。
1日の半分のエサ量を食べる時間帯がある?
人間にも食事時があるように、もちろん魚にも食事時があります。
面白いことに魚食性が強い魚種ほど摂食日周性(食事リズム)があり、ハマチは1日の半分の量のエサを早朝に食べます。
「青物=朝マズメ」ですね。
また、雑食性が高くなるほど摂食日周性(食事リズム)はなくなっていきます。
カニや海藻、プランクトンなどを食べる魚は、比較的だらだらと食べ続けるということですね。
ただし、マダイは雑食性が強いながらも早朝(といっても朝9時頃まで)の捕食傾向が強いことが黄海での底引き網漁による検証からわかっています。
人間のアスリートやバンドマンや会社員や漁師が様々な生活リズムで食事をとるように、魚も魚種によっていろいろと違いがあっておもしろいですね。
魚の群れで個体差がある
釣りやすい魚と釣りにくい魚。
アジングをやる方は気づいている方も多いとは思いますが、同じ群れの中でも個体差があります。
人間も、同一集団の中に騙されやすい人や騙されにくい人がいるように、魚も個性(個体ごとの差異)があり釣りやすい魚と釣りにくい魚が混在しています。
「スレる」ということは、「釣りやすい魚をあらかた釣ってしまった」と限りなく同義なのかもしれません。(「スレてない」=「釣りやすい魚が水中に多い」)
このことから、「いかの釣りやすい魚と多く接触するか」が数釣りにおいて大事だということがわかります。
一箇所で粘らず、ランガンしたほうが数が伸びる場合があるのと似ていますね。
定期的に読み返したい
印象に残った箇所をピックアップしましたが、他にも嗅覚や聴覚、C型釣り針の有効性や水温と魚の体温など興味深いトピックスはたっぷり。
特定の魚種を釣るための即物的なノウハウではなく、魚を深く理解するためのヒントが多く記されています。
定期的に読み返し、魚へのアプローチや釣りのヒントにしたい名著でした。
以上、「最新研究成果で大漁確実!?魚の行動習性を利用する釣り入門」でした!